ちば環境情報センター
2001.12.7 発行    ニュースレター第53号
代表:小西由希子

目次
  1. 房総丘陵のヒメコマツの減少と地球温暖化
  2. 未来を耕す会 
  3. 不耕起田んぼでメダカの学校   岩澤信夫さんをたずねて 
  4. YPP谷津田プレーランドプロジェクト 実践行動第6弾
  5. 「子供の脳の発達と化学物質の影響について」の講座を聞いて

房総丘陵のヒメコマツの減少と地球温暖化

千葉県生物学会 君津市 籐平(とうへい)量郎(かずお) 

ヒメコマツは1束が五葉の松で、鮮やかな緑と葉が短く揃って端正であることから庭園樹や盆栽に仕立てられた。この松が房総丘陵にあることは地元では既成の事実であり、上総亀山では、家の梁材や板材として普通の松材より珍重されており、清和地域では「三島五葉松」と呼ばれ盆栽の銘柄品であった。個体数は,アカマツなどに比べれば遥かに少ないにせよよく知られており、30年前には稚樹・幼木を入れなくて千を超える単位であったことは間違いない。
しかし植物学的には、房総にあることが大変珍しい種である。それはこの種の主分布地が関東以西の標高1000mから1700mの山地帯上部、亜高山帯下部であるからである。したがってヒメコマツは本来房総で見られる種ではないのであり、明らかに氷河期の遺存種である。一般に針状の葉を持つ針葉樹は、表面にクチクラが発達し、細胞壁の厚い細胞で表皮が作られるので固い葉をもっている。その中でマツ属の仲間は最も針葉樹らしい葉を持っている。針状の葉であれば、気孔は少なく乾燥に耐え、そのためマツ属の種は乾燥する険しい尾根や崖の上、岩地の土の少ない所に見られる。一方でそのような貧栄養の所に生育できるのは根に菌が共生して、その菌根が水分・養分を吸収できることにもよっている。
ヒメコマツはその房総のマツ属の中で最も厳しい地形に生育している。私が高宕山南部で調査した生存樹の70%は険しい崖の中途や崖の頭にあった。このような所では、暖温帯の優占種であるスダジイ、カシ類、タブノキや落葉広葉樹でも低木を除いて生育できない。生育できても枝を大きく広げれば崩落する。唯一生育できるのはカエデ類だが、カエデは乾燥する所には生えない。こうしてヒメコマツは広葉樹との競争を避けて生き残ったと言える。このことは房総丘陵の奥にヒメコマツの生存出来る地形が存在続けたことを意味する。房総丘陵は地史の比較的新しい時代から隆起を続けており、そのため激しい浸食が起こり、標高300m前後の丘陵としては稀にみる険しい地形を作っている。ヒメコマツは謂わばこの房総丘陵の自然を象徴する樹といえよう。
このヒメコマツが近年急激に減少している。このことに気づいたのは、1998年の環境省の特定群落調査のヒメコマツ優占群落(香木原)の調査で、6本のヒメコマツが全滅している現場に出会ったからであった。
次いで1999年から2000年に高宕山南部地域で1984,1988年に生存した192本のうち生存が確認出来たものは16本、約90%強が枯死していた。当地域では他に11本,計27本が2000年秋現在確認された。このような現状に憂慮した人たちでヒメコマツ研究会が結成され、昨年秋から今年春まで調査された結果全房総丘陵での現存本数は80本プラスである。ブラスとは今後も発見の可能性はあるからであるが、最大でも100本を越えることはないと推定される。稚樹、幼樹は極めて少なくこのことからも房総のヒメコマツ個体群は絶滅の危険にあると言える。
このヒメコマツ枯死の原因は何であろうか。多くのヒメコマツは枯死後数年を経過して、ある時期に一斉に枯れた可能性がある。これは同じく頃高宕山南部地域でモミも枯れていての類推であるが1993年には枯死は殆どみられなっかったことを確認しているので、1994年の猛暑と干害がその大きな原因と推定される。モミも数百本、なかに直径1mを超えるモミの大径木が何本も枯れているので、200年に一回の異常気象と言える。その異常気象は地球温暖化によってもたらされた可能性はある。但しモミの異常は富津市側のみで見られるのに、ヒメコマツのそれは房総丘陵奥全地域で見られる。すなわち氷期遺存種に異常が発現し、その程度はより高地性のヒメコマツの方が大きい。この異常の方向は温暖化によって齎されるであろう異常の方向と一致する。そして結果として照葉樹林が拡大する。
今回のことでヒメコマツに興味を持って調査すると、ヒメコマツは標高1400mの山がある伊豆や箱根に分布しない。876mの筑波山にもない。1500m台の山がある丹沢山塊には以前数十本あったが今はない(神奈川県植物誌にある大山にも今はない)。東京・埼玉には以前からない(キタゴヨウはある)。こうみると房総のヒメコマツは南関東に特異な存在であり、種多様性の見地からも重要である。この種を何とかして残したいと願っている。


未来を耕す会 

         千葉市稲毛区 伊東 多奈美 

及川さんが名づけたこの素敵な名前の会が始まって2回。今のところ特に講師がいるわけではなく、参加者は小さい子を持つお母さん達である。家事を担う視点から、環境のことをざっくばらんに話したり、勉強している。第1回目は、地球温暖化問題から始まり、クーラーのこと、ゴミのこと、リサイクルのこと、などなど。省エネルックは定着しないので、もっとカッコイイものをデザイナーに作ってもらい、日本の夏の正装として国も推奨したらどうか(日本の夏はどう考えても欧米タイプのスーツではなく、東南アジアの開襟シャツじゃないと!ジャブジャブ洗えるし。)などという意見も出て、話は尽きず盛りだくさんだった。
2回目のテーマは「せっけん・掃除・洗濯」。参加者は環境などを考えて合成洗剤からせっけんに換えている人ばかりだったが、皆せっけんかすの問題で悩んでいたので、数人が実行している炭と塩の洗濯の話で盛り上がった。環境にも影響が少なく、すすぎは1回でよいので水量・時間ともに節約できるこの方法がより良いのでは、ということで落ち着いた。実際、私も1年以上この方法で洗濯しており満足している。
掃除については、おすすめのせっけんや、重曹・酢・焼酎を使う技が紹介された。二酸化炭素排出量のチェックも続けることになったが、光熱費削減のノウハウでも盛り上がり、地球と家計にやさしい会となっている。次回は、洗濯用炭袋を作ってみることになった。それと、シャンプー・リンスについても取り上げる。
アメリカ先住民は物事を決めるのに7代先の子孫を考えて決定すると聞いた。今の世の中、自分のこと、せいぜい目に見える(生まれている)孫のことくらいまでが精一杯のことが多い。目に見えない先の事や、人・物まで考えられる豊かな想像力と思いやりをみんなが持ったら、ずい分世の中が変わるだろうと思う。まずは、自分からだが。「いつかは、ドイツ視察旅行に行きたいね」を合言葉に、ゆっくり楽しくこの会で学びたい。興味ある方、ぜひのぞいてみて下さい。連絡先:Tel/Fax:043-234-3579, メール:masayume@cba.att.ne.jp


不耕起田んぼでメダカの学校   岩澤信夫さんをたずねて 

千葉市中央区 及川 久美子 

日本の農業のため、30年ほど前から量産と冷害を考えた成苗作りに取り組み始めたのがはじまりという岩澤さん。たどり着いたのは、不耕起という栽培法。耕されていない硬い田んぼに根を伸ばすことによって、稲はその生命力を強くする。稲が自ら根の力で田を耕すことから、自然耕ともいう。
「田んぼの天地を変えるという行為がすでに環境破壊の始まり。森は誰も耕さないが、自ら葉を落とし、他の生物とつながり、大木となる。」と語る岩澤さん。田おこししない田でのみ繁殖するサヤミドロという藻類が、水面を覆うその下で、メダカが異常なくらいに増えていくのを目の当たりにした岩澤さんは、全国の農家に不耕起を指導して歩く。しかし、田んぼを耕すのは聖徳太子の時代からの常識。もはや遺伝子レベルに刷り込まれたその常識を覆すのは並大抵のことではない。
ところが思いがけず、'93年の大冷害の際、自然耕の稲の強さを証明することができ、にわかに日の目を見ることとなる。機械なしには考えられない現代の農家のため、不耕起田専用の田植え機まで開発した。「有機という名の下に、日本の水田は、家畜の糞尿捨て場と化しているのが現状」と言葉を吐く岩澤さん。農薬漬け・抗生物質漬けの飼料を食べている家畜の糞尿は、農薬よりも恐ろしいとも言う。
不耕起田の生態系回帰力のすごさに一番驚いているのも本人である。宮城県の田尻町の田には、史上初、雁が4万羽も飛来したという。その実績を買われ、現在、朱鷺支援団体から依頼されて、佐渡に不耕起田を広めるべく奮闘中。また、琵琶湖の水質浄化も依頼されている。"NPOメダカの学校"も設立。佐原の田んぼで繁殖したメダカを全国に搬送する試みもはじめた。「メダカや稲はウソをつかない。いくら安全を主張しても、メダカが育たない田んぼで作った米はウソである」という言葉通り、岩澤さんのお米で作ったおにぎりは夏でも腐らないという。


YPP谷津田プレーランドプロジェクト 実践行動第6弾

「木の葉・木の実のオブジェ作り」

楽しかった米作りを終え、一緒に遊んだカエルやトカゲが冬眠に入った田んぼはちょっとさみしそうに思われるかもしれません。でも、ちょっと立ち止まって見ると葉を落とした草木にきれいな実がついていたり、おもしろい形の枝やツルがたくさんあるんです。今回は谷津田の周りにあるそんな素材を使ってオブジェ作りに挑戦してみましょう。クリスマスリース、ツルかご、ドングリ細工などなど、素敵な作品を作りで師走の一日を谷津田でのんびり過ごしましょう。

日 時:2001年12月16日(日) 10:00〜14:00  ※小雨決行
場 所:下大和田谷津田(千葉市緑区)
集 合:中野操車場バス停10:00(JR千葉駅10番成東行きちばフラワーバスで45分,520円)
持ち物:弁当,飲み物,敷物,長靴, 寒くなりますの防寒対策を.
参加費:300円(保険代)
連絡先:高山邦明(TEL&FAX:043-294-9656 e-mail:kuni@eastcom.ne.jp)
主 催:ちば環境情報センター   共 催:ちば・谷津田フォーラム

「子供の脳の発達と化学物質の影響について」の講座を聞いて

袖ヶ浦市 蓮見 テエ 

現代社会の大きな問題として、マスコミ等で報道される青少年犯罪が年々増加し、残酷になっているようですが、問題のひとつの要因に環境ホルモンによる遺伝子変異によって脳を作り上げる過程で脳に障害を与える可能性があることを知り、大変驚いています。
 子供が生まれ、発達していく段階で、問題行動を少しでも防げるように、家庭で日常的に否定的な言葉を発したり、親の愛情不足、学校での「いじめ」などの外圧をなくし、愛情をもって解決に当たらなければならない大人社会の課題であると思います。
 日本は昔から自然環境にあり、山林に恵まれ、そこから生まれた「木」の文化を持ち、周囲は海に囲まれているから、動物性のタンパク質は魚を主にとして足りていたのかも。
自然界のサイクルの中で生活してきた体系が戦争と戦後の50数年で人工的な化学物質によって自然界も、人間の精巧なホルモンの仕組みまでが撹乱されてしまったのです。
多くの人々が(特に弱い幼児期など)心身共に調和を失い、幸せな生活もやがて足元から崩れ去っていくのではないかと不安です。ひとりひとりが住みよい環境を守るためには便利性のみを追求するのではなく創意工夫し、努力していかなければと思います。


平成13年度自主企画講座「参加体験型環境学習」    気づいて暮らす千葉の自然と環境
千葉市の自然を知り、環境問題を考えます。
講座は、従来の受動的な講義形式ではなく、ワークショップなどを取り入れた、参加体験型学習で、気づきを行動へとつなげるプログラムです。

第1回1月16日〔水〕「千葉市の自然環境を知る」
        講師:中村俊彦氏(県立中央博物館)
            古川美之氏(四街道にプレーパークを作る会代表)
第2回1月20日〔日〕「千葉市の川と水辺の生き物」
        講師:田中正彦氏(県立検見川高等学校)
第3回1月30日〔水〕「千葉市の水環境を知る」
        講師:小倉久子氏(千葉県環境研究センター)
第4回2月 6日〔水〕「千葉市の自然を感じよう」
        (草木染めとネイチャーゲーム)
        講師:佐々木典子氏,平田和博氏,中村彰宏氏,小西朝希子氏
第5回2月20日〔水〕「毎日の"食べる"と"捨てる"」
        (エコクッキングとごみ問題)
         講師:福満美代子氏,志自岐百々代氏,伊原香奈子氏,中村幸氏
         「これならできる!活動への第一歩」
         ファシリテーター:小西由希子氏
会 場:千葉市生涯学習センター
申込方法:往復はがきに希望講座名を明記の上、住所・氏名(ふりがな)・年齢・性別・職業・電話番号・返信用のあて先を明記して送付
申込先:〒260-0045 千葉市中央区弁天 3-7-7
千葉市生涯学習センター学習課企画班 TEL.043-207-5821
申込締切:12月15日

編集後記:11月27日、南房総白浜へ生物調査に行きました。久留里から清和にかけて道すがら、モミジの紅と常緑樹の緑とのみごとなコントラストには、目を見張ってしまいました。それにしても、今年の紅葉はいつになく鮮やかだと思いませんか。  mud-skipper