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ちば環境情報センター > ニュースレター目次>ニュースレター第244号 

2017.11.8 発行    代表:小西 由希子

目   次

  1.  「やちよ自然エネルギー市民協議会」設立!
  2. 蘇我にもう発電所はいらない—「公害」の歴史ある土地で進むあらたな建設計画ー
  3. グリーンインフラと生態系インフラ ~ 持続可能でレジリエントなコミュニティづくりのために~3

 「やちよ自然エネルギー市民協議会」設立!

やちよ自然エネルギー市民協議会   八千代市 松尾 昌泰 

 2017年10月14日に「やちよ自然エネルギー市民協議会」(代表:松原弘直氏)が設立されました。 14日には設立総会につづき設立記念シンポジウムが行われました。 シンポジウムでは、馬上丈司氏による基調講演「地域で創る自然エネルギー」があり、「永続地帯」の紹介がありました。この「永続地帯」とは、 「その区域で得られる再生可能エネルギーと食料によって、その区域におけるエネルギー需要と食料需要のすべてを賄うことができる区域」との概念です。 日本国内でもすでに自然エネルギーで電力を賄える市町村は100地域以上あるとのこと、ますます八千代市で自然エネルギーを作る必要性を強く認識することになりました。
基本的な考え方
 市民協議会の基本的な考えは、安全と言われ続けられていた福島第一原発事故(2011年3月11日)で大きな問題となった原子力発電から、また、地球温暖化の原因となっている石炭や天然ガスなど化石燃料による火力発電から、自然エネルギーに置き換えていくことです。八千代市でも市民・地域が主体となり、生活基盤の一番大切なエネルギーを自分たちの手で生み出そうという考えです。
まだ協議会の体制が充分整っているとは言えませんが、多くの市民や事業者などの参加と賛同を得ながら進めていきたいと思っています。

設立までの経緯
 4年ほど前の2013年暮れから、エコライフやちよ(八千代市在住の地球温暖化推進員の集まり)でご当地電力の検討が始まり、2014年には八千代市や商工会議所等とのコンタクトを始めました。9月には八千代市長をはじめ環境関係部署と農政関係部署からの参加を得て、八千代市保品のソーラーシェアリング見学会を行い、2015年には「千葉電力」や「みんな電力」などから説明を受けたりしましたが、なかなか進展できませんでした。
 これまでの「八千代市と協働での推進」ではなく、「市民主体での推進」の方向に変えていきました。エコライフやちよに市民団体の八千代環境市民連絡会が加わり、そして八千代市在住の環境エネルギー政策研究所の松原氏を中心に準備会が立ち上がり、検討が加速されました。
 その後の主な行事は、2016年12月「地域で自然エネルギーを考える市民の集い」、2017年8月講演会「市民主体で自然エネルギーを創る」、そして10月14日の設立総会と設立記念シンポジウム「地域で創る自然エネルギー」などでした。

今後の活動について
 まずは、公共施設などの屋根を借りての太陽光発電の事業化を具体的に検討していくことと、そして、農地に設置するソーラーシェアリングの事業化を検討開始することになります。
会員は八千代市民が中心になりますが、市外の方の参加も歓迎していますので、協議会への入会をお待ちしています。(会の概要や入会案内はhttp://yachiyorecc.net/をご覧ください。)

蘇我にもう発電所はいらない
—「公害」の歴史ある土地で進むあらたな建設計画ー

Friend of the Earth Japan (FoE Japan)    深草 あゆみ 

Day of Action!
 2017年10月14日、FoE Japanは「蘇我⽯炭⽕⼒発電所計画を考える会」とともに、蘇我石炭火力発電所の建設予定地をめぐり、建設に反対をするアクションを行いました。
 千葉市は川崎製鉄所(現JFEスチール)の工場が原因の大気汚染で健康被害に苦しみ、公害裁判がたたかわれた街でもあります。今でも工場から排出される排気ガスや煙が周辺の住民に影響を及ぼしており、そんな中での石炭火力発電所の新規建設は住民の反対や懸念を生んでいます。
 また10月13,14日は、石炭火力や原発など環境や社会に大きな悪影響を及ぼすエネルギーに対してノーと言い、地方分散型でより持続可能なエネルギーを求める市民が世界中でアクションを起こす「Day of Action(デイ・オブ・アクション)」でもありました。日本だけでなく、インドネシア、バングラデシュ、ネパール、オーストラリアなどでFoEの仲間や市民が声をあげました。
公害の歴史
 千葉県千葉市の住民は1951年にできた川崎製鉄所(現JFEスチール)の工場からの煙による深刻な公害被害に苦しんできました。
 1972年、公害対策を求める保護者、行政職員、学校の先生やお医者さんなど幅広い市民があつまり「千葉市から公害をなくす会」が結成されまました。千葉県千葉市の当時の市民の2割に当たる7万5千人もの人々が賛同し「公害防止基本条例制定」の直接請求がなされましたが、却下され、1975年「子どもたちに青空を」という願いのもと住民らが提訴。「あおぞら裁判」が始まりました。
 1988年、千葉地裁は川崎製鉄の排出する大気汚染と住民らの健康被害との法的因果関係を明確に認め、川崎製鉄に対しては損害賠償を命じ、原告勝訴の判決を言い渡しました。大気汚染と公害患者の病気との法的因果関係が認められたこの裁判の結果は、後に続く各地の大気汚染公害裁判の励みとなりました。
 そんな、公害とたたかってきた市民の歴史あるまちで、新たな石炭火力発電所の建設が進もうとしているのです。

あらたな石炭火力発電所計画
 現在、千葉市中央区で設備容量107万kWの⽯炭⽕⼒発電設備の建設計画が進んでいます(「蘇我⽕⼒発電所(仮称)」)。同発電所計画は、JFEスチール(旧川崎製鉄)と中国電力が出資している千葉パワー株式会社が事業主体です。現在、環境影響評価法等に基づく環境アセスメントの⼿続きが進められています。
 今でも、近隣住⺠はJFE スチール東⽇本製鉄所が原因と考えられる⼤気汚染に悩まされており、汚染物質の排出がさらに増えることに強い懸念を⽰しています。
 「蘇我石炭火力発電所計画を考える会」の調査によると、現在も「網戸や物干し竿が、毎日ぞうきんでふいても真っ黒でベタベタしている」などといった黒い粉塵への苦情が役所に寄せられているとのこと。また同会が実施した市民アンケートでは、アンケートに回答した市民の9割が発電所建設に反対しているそうです(10月16日現在、1万枚配布中331名が回答)。

ベランダに一週間放置したシャーレにたまる粉塵
 事業者に出資しているのは、これまで公害を引き起こしてきたJFEスチールと、地元からは遠く離れた中国電力で、発電所はJFEスチールの敷地を使います。住民らは石炭やスラグが野ざらしになり、粉塵がまっている現状の改善をまず、と訴えています。
 発電所の建設予定地の半径5km圏内には、学校やスポーツ場などの公共施設が立地しています。もし石炭火力発電所が建設され、稼働を始めたら、排出する大気汚染物質による地域住民への追加的な影響が懸念されます。建設予定地は公害裁判を経て、環境が改善されてきた地域です。新たな石炭火力発電所建設により、せっかく改善を試みられてきた土地が、再度汚染されてしまう可能性があります。
 また、石炭火力発電は、いくら効率が良いといわれる技術を使ったとしても、化石燃料の中でも一番多くのCO2を排出し、その排出量はLNGの約2倍になります。地球温暖化の原因となり、異常気象や集中豪雨・干ばつなど気候変動を加速させます。
 国際的な脱石炭が進み、日本国内の電力需要も今後減少していくとみられる中で、本当に石炭火力発電所が必要なのでしょうか。

   
【事業概要】
   発電所名 : (仮)蘇我火力発電所
   事業者 : 千葉パワー株式会社(出資者:中国電力・JFEスチール)
   住所  :千葉県千葉市中央区 (JFEスチール東日本製鉄所 千葉地区東工場内)
   設備容量(最大発電能力) : 107.0 万kW
   建設開始予定 : 平成32年
   運転開始予定 : 平成36年
   発電技術 : 超々臨界 (USC)

グリーンインフラと生態系インフラ
~持続可能でレジリエントなコミュニティづくりのために~3

東京情報大学 総合情報学部 環境情報研究室  原 慶太郎 

生態系インフラ
 
 グリーンインフラという言葉が広く用いられるのに従って、本来の意味が曖昧になることを危惧し、より生態系のもつ多面的機能と持続可能性を強調したものとして、日本学術会議の自然環境保全分科会では、生態系インフラストラクチャー(Ecosystem-based Infrastructure, Ecosystem Infrastructure)という概念を提唱しました。広義のグリーンインフラから人工的な緑地/水域などによるインフラを除き、生態系(自然・半自然環境)を活かすもののみを指すとされています。湿地(浅海域や水田を含む広義の湿地)や草原・森林など、自然域、半自然域の生態系を、多様な生態系サービス供給ポテンシャルを維持しうるよう、社会にとっての多義的空間として保全・再生・管理することを通じて実現する社会基盤です(日本学術会議 2014)。ここでは、里地・里山や河川の氾濫原なども洪水時の遊水池として機能する生態系インフラとして位置付けられます(図8)。


 千葉県内の谷津田を中心とする里山景観域(図9)は、多様な生態系サービスを供給する生態系インフラと考えることができます。一方で、この定義に準拠すると、広義のグリーンインフラから除かれる「人工的な」緑地/水域などによるインフラをどの程度まで認めるか-たとえば「農地」をどのように位置付けるか-によって、生態系インフラの意味するところの範囲が変わってきます。この点に関しては、今後の展開を待たなければなりません。
 生態系インフラを上記の定義に従うとして、筆者が考える存立要素は次の項目です。まず、1) 生態系としての構造と機能を保持すること、です。生態系には、生産者・消費者・分解者が生物間相互作用を有して生活し、そこに物質循環とエネルギー流がみられます。留意すべき点は、生食連鎖だけでなく腐食連鎖の重要性にも目を向けることです。

 次に、2) 生物多様性・生態系サービスへの配慮、です。生物多様性については、構成要素間の生物間相互作用を考慮することが肝要ですが、その保全・管理には、3) 時間・空間スケールを考慮に入れることで進めなければなりません。植物と花粉媒介昆虫の相互関係や、両生類の生活史を考えると、その生活域はひとつの生態系に収まることはなく、複数の生態系にまたがった範囲に及びます。生態系の集合体としての「景観(ランドスケープ)」スケールでの扱いが重要となる。その場合、景観生態学における景観構造としての、配置構造(configuration)や連結性(connectivity)に関して配慮しなければならなりません。また、エコシステム・マネジメントの考えを取り入れ、4) 多様な主体による順応的管理、が重要です。ここでは、わが国で河川管理の分野で古くから行われている「みためし」とよばれる考え方が参考になるように思います。半自然生態系では、当然のことながら、人為による適切な遷移の管理を進めることが大切です。自然災害が想定されるところでは、生態系を活用した防災・減災である5) Eco-DRRへの取り組み、が重要となってきます。
 
 以上、生態系インフラを実現するための要点について述べてきましたが、現状では、グリーンインフラと生態系インフラを同様な意味で用いることも少なくないようです。グリーンインフラが提供する機能や福利は生態系サービスを基盤としており、このことを考慮に入れないとグリーンインフラが既存のインフラとの違いを説明できなくなることから、グリーンインフラと生態系インフラとはほぼ同義であるという見方もあるくらいです(木下, 2017)。
 言葉に踊らされることなく、持続可能でレジリエンスを高めたコミュニティづくりに何が必要なのか。わが国でもようやく行政で取り上げられ始めたグリーンインフラですが、今後の展開を注意深くみていきたいものです。

       【文献】
European Commission (2013) Building a Green Infrastructure for Europe. Luxembourg.
Fischer, J., A.D. Manning, W. Steffen, D.B. Rose, K. Daniell, A. Felton, S. Garnett, B. Gilna, R. Heinsohn, D.B. Lindenmayer, B. MacDonald, F. Mills, B. Newell, J. Reid, L. Robin, K. Sherren and A. Wade (2007) Mind the sustainability gap. TRENDS in Ecology and Evolution, 22(12): 621-624.
原慶太郎 (2017a) 生態系を活かした持続可能で災害に強いまちづくり.ウェンディ,338: 13.
原慶太郎 (2017b) 生態系インフラがめざすこと-生態系・レジリエンス・持続可能性-.ビオトープ,40: 2-5.
環境省 (2016) 生態系を活用した防災・減災に関する考え方.環境省.
木下剛 (2016) 生態系サービスと人間の福利を仲介するインフラ:英国の取り組みから.ビオトープ,38: 2-5.
日本学術会議 (2014) 復興・国土強靱化における生態系ンフラストラクチャー活用のすすめ.日本学術会議.
The Mersey Forest Team (2017) Green Infrastructure Action Plan Background: Liverpool City Central and Commercial District, Business Improvement Districts. The Mersey Forest, Warrington.
PEDRR [Partnership for Environment and Disaster Risk Reduction] (2010) Demonstrating the Role of Ecosystems-based Management for Disaster Risk Reduction. 鷲谷いづみ (2010) 生態学からみた持続可能性-ヒトと生態系の持続戦略.小宮山宏・武内和彦・住明正・花木啓祐・三村信男(編)サステイナビリティ学 4. 生態系と自然共生社会,9-34, 東大出版会.
(完)
                              

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編 集 後 記

 今年の古代米の稲刈りは台風の前日。おだが風で倒れないか、気をもみながらの数日間でした。無事脱穀した後に積みあがった稲わらの一束一束にも愛着と感謝の気持ちが湧いてきます。
 今年も残りわずかとなりました。谷津田の季節の移ろいや生きものたちの姿を映した「下大和田谷津田生きものごよみ」をお届けします。      mud-skipper