ちば環境情報センター ニュースレター 

ちば環境情報センター > ニュースレター目次>ニュースレター第220号 

2015.11.8 発行    代表:小西 由希子

目   次

  1. 日本弁護士連合会人権擁護大会報告
  2. 千葉市「谷津田の保全と活用に関する事業の進め方(見直し)(案)に対する意見」②
  3. 千葉県にすむ哺乳類10

日本弁護士連合会人権擁護大会報告

松戸市 及川 智志  

 国内の全ての弁護士が加入する「日本弁護士連合会」は「人権擁護大会」という同会では最大のイベントを毎年1回開催しています。本年の同大会は第58回目にして初めての千葉開催となりました。10月1日に千葉市の幕張メッセで開催された同大会のシンポジウムは、3つの分科会に分かれ、第1分科会が「女性と労働」、第2分科会が成年後見における本人の意思決定支援をテーマとしました。そして、第3分科会では、「放射能とたたかう」をテーマに掲げ、第1部・健康被害、第2部・汚染水、第3部・汚染廃棄物の問題を取り上げました。以下、この第3分科会の報告をします。
 第1部・健康被害では、福島・南相馬で現場医療に献身的に取り組まれている坪倉正治医師(東京大学医科学研究所特任研究員)、スリーマイル島における事故と健康被害の因果関係について調査を行ってきた中村多美子弁護士、疫学的研究を専門とし福島原発事故と健康被害の因果関係について研究されている津田敏秀医師、広島原爆症認定訴訟に取り組み、特に在外被爆者について画期的な判決を獲得した足立修一弁護士によるパネルディスカッションなどが行われ、熱い、とても興味深い議論が交わされました。 

 

 第2部・汚染水問題では、まず、福島第一原発の現地視察報告がありました。私も現地視察に参加しましたが、問題だらけの凍土壁など、とうてい「アンダーコントロール」と言えない現状でした。次に、原子力コンサルタントの佐藤暁氏から「遮水計画に見る福島事故の処理問題」、名古屋大学名誉教授(地盤工学)の浅岡顕氏から「凍土壁の有効性を問う‐恒久的遮水壁の構築が不可欠」との報告がありました。
 第3部・汚染廃棄物では、まず山口仁弁護士から基調報告があり、続いて研究者関口鉄夫氏の講演「何が,どう歪んでいるのか 放射能汚染,矛盾だらけの指定廃棄物候補地選び」 、見形和久氏(栃木県塩谷町長)の講演「放射性物質を含む指定廃棄物最終処分場問題と,どう向き合うか?」、猪股洋文氏(宮城県加美町長)のビデオメッセージと、息もつかせぬ問題提起がなされました。さらにここからがまた見所でした。「放射能から子どもたちを守る栗原ネットワーク」の鈴木健三氏、「放射性廃棄物最終処分場に反対するちば市民の会」の長谷川弘美氏、「放射性廃棄物を考える市原市民の会」の濱屋郁生氏、「大塚山処分場の漏洩の解決を求める市民の会」の鈴木紀靖氏、「小櫃川の水を守る会」の佐々木悠二氏、「放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会」の和田央子氏と、全国各地で奮闘されている住民の方々に登壇していただき、リレー報告とパネルディスカッションをしていただきました。
 個人的な感想ですが、医師や学者や弁護士といった専門家だけではなく、住民のみなさまが登壇して意見を表明してくださったことにより、とても有意義なシンポジウムになったと思います。このようなスタイルはこれまでの人権擁護大会シンポにはなかったもので、これが弁護士・弁護士会と各地の住民運動との連携を促進することになれば、さらに意味あるシンポジウムであったと言えます。原発事故の収束は見通せませんが、ひるまずたゆまず、力を合わせて闘い続けましょう。

 

千葉市「谷津田の保全と活用に関する
事業の進め方(見直し)(案)に対する意見」②

NPO法人ちば環境情報センター代表 小西 由希子 

 千葉市ではいまだ宅地等の開発圧もあり、また一方で耕作放棄地も年々増加しており、谷津田の保全が危機的状況にあることは変わらず、市の谷津田保全事業があって初めて、貴重な谷津田が守られてきたのだと思います。
 市内の谷津田を丁寧に調査し、一人一人の地主さんと直接お会いして意思疎通をはかってきた取り組みは,大変なご苦労があったものと思います。また、荒廃してあまり顧みられることのなくなった谷津田を、生きもの保全の視点から頑固に守ってこられた姿勢には深く敬意を表したいと思います。
 指針策定後10年を経て、財政状況が厳しい中にあっても、今後もこの事業が広く認められ,充実していくことを強く願い、意見を提出いたします。
 
1.下大和田(猿橋地区)の谷津田について
 おかげさまで昨年度、長年の懸案であった活動協定を締結することができました。現在地元の方や地主さんと交流を深めるべく活動に力を入れているところです。
市の資料から、保全対象谷津田の集水域面積を一覧にしてみました(下表)。下大和田(猿橋)谷津田の集水域は400haを超えており、さらにその多くが森林や田畑であることから、一年を通して豊かな湧き水が涸れることがないのだと納得いたしました。
ここは、千葉市民の水がめである印旛沼に注ぐ鹿島川の最上流部に位置しており、保全の重要性はいうまでもありません。当地区には仮登記地もありますが、区画整理準備組合はすでに解散して、組合からはすでにその旨が市に報告されております。ぜひ市としても事業者に対し保全協定締結にご協力いただくよう要請し、締結地を広げていただくことを望みます。

 

2.非優先地区について
 
①大百池
平成26年に宅地開発の事前相談があったということで,大変残念に思います。いわゆる1km条例によるものかとも思いますが、周辺は宅地化がすすみ多くの市民が居住する地域であればなおさらのこと、今後いっそうこうした緑地が重要となってくるのではないでしょうか。あらかじめ開発が予想されていたわけですから、事前に特別緑地保全地区の指定や市民緑地制度の適応を検討しておくべきだったかと思います。南東側の斜面林でまだ谷津田保全協定を締結していないエリアの締結を急ぐか、市民緑地制度の適用を検討していただきたいものです。
 
②赤井
 「保全協定の締結を進めたが、耕作放棄により荒廃が酷く、市民活動による活用も見込めないことから、今後保全地区指定の解除を検討する」ということですが、赤井の谷津田周辺は、おゆみ野だけでなく現在千葉南高校周辺の住宅開発も進んできており、緑地の重要性がこれまで以上に増しているといえます。
 一方この谷津田では、千葉市だけでなく千葉県においても貴重種となっているホトケドジョウやデンジソウが確認されていることを忘れてはなりません。指定を解除することで開発が促される恐れもあります。 
 今後は貴重種の調査なども慎重に行い、安易に指定解除することのないように願います。また、住宅地に隣接していることから、市民緑地制度の適用をぜひ検討していただきたいと思います。
 
3.保全のあり方について
 今回の見直しは、保全区域に重点を置いたものでありますが、「保全のあり方」についても言及していただきたかったと思います。今回の見直しで間に合わないとしても,今後ぜひ検討していただきたいと思います。
 
① 保全方法

 保全に関わる市民の高齢化などにより、特に生き物保全のための田んぼづくりなどは負担も大きいものです。佐倉市畔田谷津で行われているように、耕作放棄地で定期的に草刈りや水張りを行うだけの「生き物田んぼ」もすすめていってはどうでしょうか。
 
② 生き物調査
 谷津田保全によって守られてきた動植物について、これまでの調査結果をまとめ、市のレッドリストの見直しや、保全エリアの検討につなげていただきたいものです。
 
③ 人材育成
 市で主催してきた人材育成事業を今後は市民団体との協働でおこない、谷津田の応援団を増やしていくことを提案します。検討してください。
 
④ 庁内他部署との連携
 開発圧が懸念されたり、住宅地が近い谷津田においては、都市局と共同で市民緑地制度の適用を早急に検討し、保全に力を入れていただきたいです。
 
3.今後に向けての提案
 緑や水辺への市民の関心は、年々高まってきており、現在市民活動がないところであっても,活動中の市民団体との共同や、市民緑地制度の適用など、別の視点からの新たな取り組みが功を奏する可能性もあります。
 生きものの保全や教育的価値だけでなく、防災や癒しなどの予防医療の視点からも緑の価値はこれまで以上に大きくなっています。
 予算が厳しい中で,保全協定締結地域を拡大していくことは容易ではありませんが、これまで大変な努力をして守ってきたのですから, 今後決して事業を縮小することのないよう望みます。そのためにも、保全活動への支援や買い取りのための基金の創設を要望します。「千葉市ふるさと応援 寄附金」等の活用など早急に検討を始めていただきたいです。
 また、こうした新たな取り組みに向けて,保全団体との意見交換の場を持ち,互いに提案し、よりよいものとしていく取り組みが大切です。本事業に、より多くの理解者が増えることを望み、そのためには私たちもできるだけの協力をしていきたいと思っております。

千葉県にすむ哺乳類10

哺乳類研究者 香取市 濱中 修 

 リスの学名は、Sciurus lis です。Sciurus という属名が、リスのなかまであることを表し、lis が日本で「リス」とよばれてきた日本固有種であることを表します。国際的には、リスは“lis”で通じるわけです。
 千葉県にすむリスを、いちいちニホンリスなどと断わらなくてよいはずなのですが、私が「リスがいます。」というと、必ず「ニホンリスですか?」ときかれます。それほど、リスは珍しい動物になってしまいました。
 
日本にすむリスのなかま
 北海道には、エゾリスとエゾシマリスが棲んでいます。エゾリスはヨーロッパからアジア北部に広くすむキタリスの亜種で、本州以南にすむリスとは別種です。エゾシマリスも、やはりアジア北部にすむシマリスの亜種です。リスやキタリスは、主に樹上で生活していますが、シマリスは主に地上で生活しています。
 シマリスは、本州以南には、すんでいませんでした。都市周辺の山林で、シマリスが目撃されることがあるようなのですが、ペットとして輸入されたシマリスが、野に放されたものです。
 クリハラリスも、台湾を日本が支配していた時代に、台湾から日本にもちこまれて、野に放たれた外来種です。クリハラリスが、正式和名で、「タイワンリス」は通称です。関東地方では,鎌倉周辺と伊豆大島にいます。
 リスは、ヒトを避けて、ひっそりとくらしています。早朝などしか、地面に下りてくることはありません。ですから、生息していても目撃する機会は少ない。いっぽう、クリハラリスは、ヒトを恐れませんから、生息地では簡単に出会うことができます。
 ムササビやモモンガなども、リスのなかまです。昔は、千葉県にもムササビがすんでいました。

 

リスの現状
 かつて、リスがたくさんすんでいた地域で、リスの絶滅が危惧されています。九州では、リスがすでに絶滅したようです。環境省は、中国地方でのリスの絶滅を危惧しています。
 9月のニュースレターでお知らせしたように、千葉県北部でもリスの絶滅が危惧されます。千葉県南部には、現在もリスが普通にいます。リスが生活できる環境を再生できれば、千葉県北部にもリスが戻ってきます。
 
リスの生活
 リスは、ヒトに迷惑をかけることがありません。そういう動物は、研究する科学者が少ない。プロの科学者は、研究費がでない動物を研究対象にしません。迷惑な動物には、研究費がでますから、そちらを研究対象にします。
 研究者がほとんどいませんので、リスの生活は、よくわからないことが多い。でも、わかっていることもあります。
 動物生態学では、「どこに住みどういうものを食べるかという生活」を、それぞれの動物の生態的地位 niche といいます(本川達雄(2015)『生物多様性』中央公論新社)。生態的地位を奪う環境の変化が起きると、動物は生活基盤を失い、絶滅します。
 前橋市の敷島公園には、リスがたくさんいます。ここには、利根川の河川敷から続く広いアカマツの森林があります。平地では、リスはマツ林にすんでいます。

 

 観察によって確認されているリスの食物は、マツ類の種子、オニグルミ、ブナ、クリの堅果それにタンニンの少ないスダジイのどんぐりなどです(田村典子(2011)『リスの生態学』東京大学出版会)。
 雑木林をつくるクヌギやコナラも、秋にはどんぐりを稔らせます。でも、リスがこれらのどんぐりを食べるところを見たという観察記録はありません。これらのどんぐりには、タンニンが多く含まれています。タンニンは毒物です。リスのような小型の動物は、大量のタンニンを食べれば、死にます。
1980年代に、千葉県北部でも「松枯れ」が進行しました。それまで、台地から低地へと続く斜面は、アカマツ林に被われていました。現在は、雑木林に替わっています。リスは、雑木林にはすめません。
 アカマツ林が雑木林に遷移したことが、千葉県北部にリスがいなくなった原因といえます。
 アカマツ林は、梁(はり)などの建築材にするために、あるいは燃料にするために、ヒトが造り、維持してきた森林です。外材の輸入、プロパンなどの石油燃料の普及によって、アカマツの利用価値がなくなり、管理を放棄されて、樹が弱ったところに、マツノザイセンチュウが入ってきました。これが全国で起きた「松枯れ」の原因です。
 化石燃料の代わりに再生可能エネルギーを利用する取り組みが始まっています。アカマツのチップが家庭の燃料として使われ始めています。これが普及すれば、再びアカマツ林が増え、リスがすめるようになります。でも、それは先のことです。
 マツ林のある景観は美しいものです。当面は、緑地公園などとして、リスがすめる広いマツ林を、千葉県北部に計画的に造成していくことが必要です。 


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  昨年好評だったカレンダー、下大和田谷津田ごよみの2016年度版をただいま作成中です。
  ニュースレター12月号には同封できる予定ですので、楽しみにお待ちください。
 

発送お手伝いのお願い

  ニュースレター2015年12月号(第221号)の発送を12月7日(月)10時から事務所にておこないます。
  発送のお手伝いをしてくださる方を募集しています。よろしくお願い致します


編集後記: 10月16日、下大和田でアライグマの雄の成獣が捕獲されました。作物などを食い荒らし、小動物を捕食し生態系へ大きな影響を与える危険動物として駆除されています。しかし、罠にかかった姿を見ると、可愛らしくて、ラスカルの物語が生まれたのもうなずけます。本来の生息地ではない場所に運ばれ、害獣と呼ばれるアライグマは、人間のエゴの象徴でしょう。 mud-skipper